ヘレンハウス物語の書籍を「おぐちこどもクリニック」の小口先生にご紹介して頂きました。
この本は2歳半の少女ヘレンが突然の病気によって重い障がいになり、余命が長くないと宣告されるところから始まります。
クリニックは1)小児一般診療、2)予防接種・健診、そして3)発達相談および療育の3つを柱として運営しています。小児科クリニックは小児科医一人で運営できるものではありません。幸いなことに、私と共に北里大学病院小児科の新生児集中治療センターで働いていた小児専門看護師達がクリニックスタッフとなってくれ...
そこに書かれている病院でのヘレンへの対応について、私も実際に同じような思いを感じた事を思い出しました。
NICUで我が家の息子は見込みのある治療を尽くし、「覚悟して下さい」と担当医から言われ治療から延命にシフトしました。
後から来た赤ちゃん達が次々と退院していくのを複雑な気持ちで見送りました。
病院の目的は治療・治癒なので治療方法が尽きたり、治癒を望めない患者には居場所が無いのです。
担当医やナースは懸命に対応してくれていましたし、感謝もしていますが、医療が向き合っているのは必ずしも患者でなく、患部や病気に対してなのです。
物語の第2章でヘレンと家族は様々なストレスのあった病院から自宅へ戻ります。病院でのストレスから逃れたヘレンとその家族は病院とは別の様々な苦難を味わいます。
病院では当たり前であった医療的ケアを自ら行わなくてはならなくなったのです。
在宅でのケアにおいて様々な困難に直面する中で、ヘレンの家族や周囲の仲間は力を合わせて問題を克服していきます。
ヘレンの家族はこの時、運命的な人達と出会います。
ヘレンハウス設立の核となる人達です。
その仲間が計らずも提供したレスパイトが疲労困憊している両親のケアにとても有効で、結果的にヘレンに対してもとても良い影響があったのです。
この時ヘレンハウスの種が撒かれたのです。
そして「ヘレンハウス物語」は世界初の「こどもホスピス」の設立へと物語が進みます。
理想とする「こどもホスピス」のあるべき姿は全編を通して全くブレません。
設立の中心人物はシスターですが、人種や信仰にかかわらず入所でき、ケアに関する費用は全て無料。少人数を対象にし、組織の拡大を計らない。
唯一の入所資格は”必要性”。
この本の中で最も驚いたのは、ヘレンハウスの設立や運営の資金がすべて寄付によるものとの記述でした。
ヘレンハウスの設立メンバー達は公金での助成によって行政が介入し、自分達の理想を追求しにくい状況になってしまう事を恐れたのです。
そして、ヘレンハウスの設立に賛同した沢山の人達、その中には各地の子供達が自主的に募金を募り寄付をする姿が書かれています。
実に様々な方法で親(大人)からヘレンハウスへの募金を促したり、学校へ働きかけたりしたのです。
この本の中盤には数ページの写真ページがあり、元気だった頃のヘレンが笑顔で写っています。また、ヘレンハウスで過ごす子供達の屈託の無い笑顔の写真も多数載っています。この笑顔の子供たちの親は
“子供の回復の見込みが無いことを受け入れ、治癒への期待を捨てること。子供の終末を受け入れること”を選択しヘレンハウスの利用者となったのです。
この選択をしなければならない親の気持ちを考えると子供本人とその家族にサポートが必要なのは明らかです。
しかし、ほとんどの人(私も)は「子供」と「ホスピス」この対極にある名詞が1つの言葉になることを無意識に恐れて目を背けてしまいます。
開設後のヘレンハウスにその答えがありました。
“こどもホスピスは死にゆく場所ではなく、人生を前向きにとらえる場所”
死を身近に感じる重苦しい場所ではなく、限られた人生の質を高め、人生を肯定的にするために取組んでいるのです。
とある利用者は「ヘレンハウスに滞在した日々がどんなに助けになり、死への恐怖が和らいだかわからない。そして息子は人生の最後に明るい光に囲まれていた。」と語っています。
「幼い子供が長くない余命を過ごす場所=不幸な場所」こんな固定観念にとらわれていた私はこの一文で私の胸につかえていたモノが取れた気がしたのです。
世界中でヘレンハウスをモデルケースとして”こどもホスピス”が設立されています。
巻末ではその世界のこどもホスピスが紹介され、日本のレスパイト施設やこどもホスピスも紹介されており”あおぞら共和国”設立の変遷も描かれています。(あおぞら共和国の設立物語もドラマチックです!)
「ヘレンハウス物語を翻訳して日本に紹介したい!」小口先生をはじめとする方々の情熱と支援の必要な子供に対する想いのおかげで私はこの本に出会う事ができました。
小口先生に「長い本だから読むのが大変でしょう」とメールを頂きました。
たしかに少し難しい部分もあり、スラスラと読み進めるとはいきませんでしたが、原書を忠実に翻訳し、正確に伝える先生の使命を感じました。
私の拙い文章ではとてもこの”物語”を表現することはできません。
是非、小中学生にも読みやすい意訳版を出版してほしいです。
ヘレンハウス物語の中で、支援の必要な子供やその家族が、公的な支援・セイフティネットの目から漏れてしまったり、受けられる支援があるという情報を得られなかったりする状況も書かれています。
インターネットが普及している現在の日本でも情報不足により支援を受ける機会を逸してしまう状況がままあります。
COMUGICOは情報を集約し、発信することで必要な支援が必要な方々へ届くように今後も精進してまいります。
そして近い将来”あおぞら共和国”で満天の星空を見上げながら設立した方々に想いを馳せたいと心から願っています。
小口先生、本当にありがとうございます!
ヘレンハウス物語 ジャクリーン・ウォースウィック著 仁志田博司・後藤彰子/監訳
世界で初めてのこどもホスピス「あおぞら共和国」の原点
もくじ 1 ヘレンの病気 2 病院から家に─退院後の生活 3 フランシスとヘレン 4 こどもホスピスの具体的な計画 5 こどもホスピス構想の実現に向けて 6 開設後 7 ヘレンハウスの理念 8 介護の日々を振り返って 補章 新しい世紀に向けて ・世界のこどもホスピス ・レスパイト施設“あおぞら共和国”
出版社:クリエイツかもがわ
定 価:2592円(消費税を含む)
発 行:2018年9月30日
本書を是非ご購読ください。「あおぞら共和国」支援となります。
あおぞら共和国やもみじの家、奈良親子レスパイト等の日本の施設もたくさんの方々に知ってほしいです。
COMUGICOにできる支援の一つとして、今後も積極的に情報を発信・紹介させて頂きます!
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