tenbo|平和をテーマにした MERRY SMILE FASHION SHOW

年齢、性別、国籍問わず世界に発信するファッションブランド tenbo 。
tenboが今回平和をテーマに行うMERRY SMILE FASHION SHOW。
そのショーにモデルとして娘が出演することになった。

事の始まりは2019年5月であった。

ファッションブランドtenbo「吉祥寺コレクション」のモデル募集オーディションに娘が受かり出演することになっていたが、新型コロナウイルス感染防止の為中止になってしまった。

中止を知らせるtenbo代表の鶴田さんからのメッセージには心のこもったお詫びと忸怩たる思いが溢れていた。
イベント直前の中止という決断は主催者にとっては何より辛いのは想像に難くない。

私達も残念ではあったが、鶴田さんの「またこのメンバーでショーの機会を作る」という言葉に救いを感じつつ、アーティストとして自身の思い描く発信がままならない中、出演者の気持ちに配慮してくださる鶴田さんの優しさが只々嬉しく、モデルやスタッフが万が一感染してしまう危険を回避する姿勢にむしろ頭が下がる思いであった。

それから1年3カ月、妻が携帯握りながら奇声を上げた。
鶴田さんからMerry Smileファッションショー参加の打診があったのだ。

完全オンラインで参加者の感染リスクにも万全の対策で実施するという。

妻は恍惚の表情である。つむじの辺りでお花が咲いて、その周りを蝶々が飛んでいるようだ。
「保護者は1名のみだから、平日だしあなたは仕事。私が行くね!あははは!」
まぁそりゃそうだ。もちろん私も異論など無い。残念だが私は後から録画で観ることになった。

夢見心地の私たちに突然の状況変化。妻のムギコにとある病が告知されたのだ。
その病の治療のためムギコの当日の帯同は不可能となり、ムギコはかなり残念そうに私にその権利を譲ることとなった。

ショー当日、ワクワクする私に、ムギコはあれこれと細かい指示をしてくる。
聞き流す私。怒るムギコ。

感染リスクを最小限にするため自宅からタクシーに乗る。
車が大好きな娘はキャッキャと喜び、脚をバタつかせる。運転手さんのシートを蹴飛ばさないよう娘の脚を押さえながら行先を告げる。
「渋谷のサイコーなファッションショーの会場までお願いします!」
「・・・渋谷ですね」
事務的な運転手さんの言葉とともに車は走り出した。

娘の着用予定の服は「希望のドーム」。
それは広島の原爆ドームからインスパイアを受け、焼け残った鉄骨の骨組みのイメージとカラフルなグラデーションが美しい千羽鶴で構成されたスカート。
ドームの外壁を思わせるレンガ模様を色とりどりのパステルカラーで彩色したジャケットを組み合わせたドレスだ。

昨年の広島コレクションで初めて見て、戦禍の闇に目を背けず、むしろそこから明るく平和な未来を照らす光を感じさせる作品(←私感である)にとても感銘を受けた。

娘があのドレスを纏うなんて全く想像できなかった。
スカートの着用自体がピアノの発表会でワンピースを着たくらいである。押し寄せる不安。
「千羽鶴をクシャクシャにしたり、ヨダレ付けたりしたら大事件になるよ!超気をつけてよ!」
ムギコの忠告が頭をよぎる。

娘はこれから起こる出来事など思いもせず、私の手を払いのけることに夢中である。

会場は「地域交流センター新橋」渋谷区にある渋谷区の施設なのに何故か「新橋」。絶対に間違えて港区の新橋に行く人がいるだろうな。
この建物の地下1階がファッションショーの会場だ。出演者はまず3階の控室に集合とのこと。建物入口で検温と手指消毒をし、エレベーターで3階に上がった。
3,4部屋ある一番奥がtenboの楽屋になっている。「楽屋」なんて普通のサラリーマンはなかなか立入ることはない無縁の場所だ。
ワクワクが加速してきた。
娘も大好きなドライブを堪能してご機嫌だ。
朝のTV番組の星占いで私の星座は最下位だったが、今日はなんだか上手くいく予感がする。

楽屋にはスタッフの方やメイクさん、参加モデルとその保護者達がもう集まっている。鶴田さんが参加者と歓談しているのが見えた。
ここで参加者名簿に氏名と連絡先を記入し、直近1週間の体温記録を提出した。
鶴田さんに挨拶をすると、驚くことに2年前に会った私たちのことを覚えてくれていた。
当日は限りなく100%に近いパフォーマンスをしたいと、ショーの前日は必ず徹夜でギリギリまで作業を突き詰めると言っていた鶴田さんだが、疲労の色は見られない。
穏やかな口調でスタッフの方々に指示をだしたり、労ってりしている。

「とりあえずみんな衣装を合わせましょう!」

見るからにデリケートな千羽鶴のドレス「希望のドーム」がイスの上に鎮座している。
鶴田さん自らフィッティングしてくれる。
娘の瞳がキラキラと輝く。
万が一にもヨダレがドレスに垂れないようミニタオルを握りしめて、フィッティングの様子を写真に撮る。
おぉ、、、「馬子にも衣装」とはこのことか。素晴らしい。
この感動を伝えようと自宅で待機しているムギコにTV電話をする。
繋がると、暗いスマホの液晶にうごめく影が見えた。寝室で横になっていたのだろう。
「ちょっと見て見て!りおバチボコ可愛いよ!」
因みにバチボコとは小児PT用語ですごくの最上級の意味だと以前“かめきち”が教えてくれた。(多分ウソ)

スッピンでやつれた顔を皆に見せたくないのだろう。ファインダーに入らないようにしながら娘の姿を確認したムギコ。
案の定大号泣。フィッティングでこの有り様だと本番は酷いことになりそうだ。
スマホのスピーカー越しに鶴田さんにお礼を繰り返すムギコ。ベッドの上で何度もお辞儀をしているのだろう、スマホ画面が暗い部屋の壁と天井を交互に映す。
画面を見ていたら軽く酔ってきたので通話終了とした。

“密”を避けるために別の楽屋にもう一組のモデル親子と移動した。一部屋の人数制限も厳格に守っているのだ。
延期の度に同じ面子の写真を見ていたせいか、今回の応募モデル達は皆、旧知の子ども達と錯覚してしまう。
同部屋のメンズモデルは”太陽くん”。写真の通りイケメンだ。
「やあ!」と声をかけるも、恥ずかしそうにママの後ろに隠れてしまった。

以前、”どこかで会ったよな”と思い「こんにちは!お久しぶりです。」と某有名俳優さんに声を掛けてキョトンとされたことを思い出した。
本番前に屋外での撮影会を行った。雰囲気のいい裏路地でしばしの撮影タイム。狭い路地で度々通行人が通るが、みな子ども達の笑顔とステキな衣装に微笑みながら通り過ぎていく。

その後、メイク直しまで小一時間のフリータイムを頂いた。
どれどれ、リハーサルがあるとはいえ、事前に会場を少し確認しておいた方が良いだろう。
同日出演の”書家の金澤翔子さんに会えるかも”とかイベント主催者の”Merry水谷さんに会えるかも”という下心などはもちろんある。
エレベーターで地下1階に降り、扉が開くと会場前の通路には可愛らしいチアリーダー達が出番を待っていた。

会場は完全オンラインのため、客席などの観覧スペースはなく三台並んだカメラの後ろは様々な機材がならんでおり、足の踏み場がないほどだ。Merry SmileのTシャツを着たスタッフの方々が忙しそうに仕事をしている。

その中に水谷さんを見つけたが、忙しそうでなかなか声を掛けられずにいた。
しばらくウロウロしていると娘に気づいた水谷さんが「大きくなったねぇ〜!」と声を掛けてくれた。娘のことを覚えてくれていたのが嬉しかった!

MERRY PROJECT 代表 水谷孝次さんと

オシャレな裏路地で写真撮影会

鶴田さん直々のフィッテング。贅沢です。

Rioの 担当メイク AYAKAさん。とても仲良くしてくれました。@ ayadonaldhamamonald (Instagram)

「ファッションショー頑張ってね」
と嬉しい言葉と龍角散のど飴を頂き、勇気100倍となった。
残念ながら金澤翔子さんには会えなかった。
メイク直しに楽屋に戻ったが、髪飾りもドレスもずっと付けたままであったわりに、ほとんど直しの必要がないくらいであった。

これは普段の娘からはなかなか考えられないことである。髪や顔に何か付けようものなら、取っては投げ取っては投げで大騒ぎになるのが常なのだ。

そしていよいよリハーサル。地下のステージにはMerry Smileファッションショーのシンボルとも言える”笑顔のドレス”を着たプロモデルhiiさんがステージの真ん中にスタンバイしている。とても大きなドレス(直径10m!)で世界中の子どもの笑顔が500人分プリントされている。

ショーの概要は以下の通り。
下手(しもて)からモデルがステージに現れ折鶴でできたブーケをhiiさんから受け取り、ナレーションとともに丸く広がったドレスの裾の外を2周回ってhiiさんにブーケを返し、上手(かみて)に掃けてくるのだ。

子ども達1人ずつの出番が終わった後、再び全員で登場してhiiさんの周りに立ち、巨大なピースバードが登場しステージを一回りする。最後に現れる鶴田さんと水谷さんの紹介でショーは完結となる。

無駄だと思いながら、娘には楽屋で紙の配置図を使い
「ここから入ってー、真ん中の女の人からー、ブーケをもらってー、女の人の周りを2回回ってー、ブーケを返してー、ここから出てくるんだよー」
と説明しておいたが理解してもらえた気がしない。

今まで見たtenboのショーでは、単独でのステージが難しい子は専属モデルがエスコートしていたが、今回は子どもだけだ。
娘を見ると本番のステージや照明に圧倒されながらも目をキラキラさせている。
私のレクチャーなんてもうすっかり忘れている顔だ。

やはり誰かが娘の手を引いてエスコートするしかない。しかし厳かなステージの雰囲気にコムTのオッサン(私)がノコノコ登場するわけにいかんだろう。む
どうしよう。

「リハーサル始めまーす!」

音楽がかかりナレーションが流れる。
緊張する私。緊張感ゼロの娘。
先程までのリラックスした表情からプロの表情に変わるhiiさん。
娘よ!他の子の動きをよく見てくれ!さっきの説明を思い出すんだ!
ちゃんとやんないとムギコに怒られるよ!(私が)と心の中で絶叫した。
半べその私を見る娘の眼差しはキラキラしたままだ。
娘の番が来た。

行ってこーい!

娘は真っ直ぐにhiiさんの元へ。よしブーケの受け取りはできたぞ。右へ回れ〜!よーし!その調子だ。もう一周頑張れ〜!こっちくんな!よしよし、そーだその調子!最終コーナーを回ったー!ドレスを踏むなよー!ラストスパート!そのまま!そのまま!そこでブーケを返せ!よーし帰ってこーい!はぁはぁ
hiiさんの巧みな誘導もあり、見事完走することができた!
ナイス娘!

途中から感嘆符だらけの心の声が口から出てしまった。本番では気を付けなければ。ライブ配信を観た人に競馬中継かと思われてしまう。
ともあれ、リハーサルは無事成功した。

後は本番でリハーサル通りにできるかどうかだ。
「帰りにハッピーセットご馳走するから、あと一回頑張ろう!」
と言うと
「やったー!」
と喜ぶ娘。こうして駆け引きを覚えていくんだな。

結果から言うと本番も上手くできた。
私も心の声を奥歯で噛み締め、完全に飲み込むことができた。
ライブ中継を観ているムギコは涙も枯れ果てていることだろう。
使い果たしているだろうボックスティッシュを買って帰らなきゃ。

楽屋へ戻り、皆でお互いを労いあった。

お疲れ様でした!最高でしたー!」
「ありがとうございましたー!」
ホッとすると同時に膝にくる疲労感。
緊張であらゆる所に力が入っていたらしい。
身体がふわふわする。

本当ならば同じ楽屋でみんなで余韻を楽しむ時間が欲しいと思ったが、コロナ感染のリスクを排除し、関係者の安全を確保するという鶴田さんの想いや、厳格なルールを定めオンライン開催を実施した水谷さんの苦労を考えると、我々参加者も一時の高ぶった感情でそれを無にすることなどできない。
皆で記念写真を撮り、再会を願いつつ我々参加者は三々五々「地域交流センター新橋」を後にした。

子どもたちへの対応も女神のhiiさん @ hii_deka_hii (Instagram)

同じ部屋で仲良くしてくれた太陽くん

Rioに優しくお姉さんのように接してくれた胡羽さん @ ko_arai_31 (Instagram)

サイケデリックなメイクが超イカス優太くん

とにかく楽しんでいたRio @ rio.fas (Instagram)

帰りのタクシーの車中では頑張った娘が、駅前のハンバーガーショップで食べたハッピーセットのケチャップを鼻に少し付けたまま、スースーと寝息を立てている。

Merry Smile projectと千羽鶴のドレス「希望のドーム」共通するメッセージは”平和”である。
私の娘はこの大きく大切なメッセージを纏ってステージを歩いたのだ。
本人にその意識はないだろう。
しかし、私を含め多くの大人に「子ども達の笑顔こそ未来の平和なのだ」というメッセージは届いたのではないだろうか。
厳かなムードの中、不釣り合いなほど満面の笑みでステージを全うした娘。
「笑顔」のメッセンジャーとして私は100点満点を付けようと思う。
戦場の悲惨な状況や、悲しみに暮れる人々にフォーカスし平和を訴え、それを願うアプローチは度々目にする。
戦争は悲しくいけないことと訴えることも大切だ。
しかし相変わらず世界のどこかで争いが続いている現在、MerryProjectの水谷さんやtenboの鶴田さんは争いの”現象”の部分ではなく、”原因”に目を向け、根本的な解決を目指していると感じた。

tenbo 代表ファッションデザイナー 鶴田 能史さん

MERRY PROJECT 代表アートディレクター 水谷孝次さん

会場に飾られた無数の”笑顔の傘”や”笑顔のドレス”そして参加者の笑顔。

「平和=笑顔」

この単純な等式が世界に平和をもたらすのだ。
なぜなら笑顔で争うことなど不可能なのだから。

娘の頭を撫でながら私はそんなことを考えていた。

デザイナー鶴田 能史
世の中全ての人へ。
「人の為にデザインするファッションデザイナーになりたい」とずっと思っておりました。
機能性もありファッション性もある服は今まではなかったので着ているだけで幸せになるような服を創作していきます。
年齢、国籍、性別、障害の有無を問わず1着1着が大切にされる服を作っていきます。
◆ヘアメイク 信藤ゲンジ◆アクセサリー YukuAkatsubaki/viviennewestwood
◆photo Tsubasa Masuda

名称 tenbo(テンボ)
デザイナー 鶴田 能史
WEB tenbo 公式サイト
WEB Pray for Peace Collection 2020
詳細ページ 障害者/難病ファッション
WEB tenbo ウェブショップ
Instagram @ tenbo_official
Instagram @ tenbo_shop
Facebook @ tenbo.tokyo
Twitter @ tenbo_design
YouTube @ tenbo official
LINEスタンプ @ tenbo

 



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