コムガール(りお)6歳。今回も楽しかったピアノ発表会

昨年のピアノ発表会から1年、今年も発表会の日がやってきた。

今年も天気は雨模様だ。娘はどうやら雨女の疑いが強い。
昨年は手術前のキツめな抗がん剤治療中で会場に来られなかったムギコも観覧できる。
一時は消滅していた髪の毛もようやく散髪したての和田アキ子くらいにまで伸びてきた。
ベリーショートも悪くないぞ。
前回とは違う会場で中村ピアノ教室の門下生のみで行われる発表会だ。
めったに着ないワンピースに娘はゴキゲンだ。部屋の中をクルクル回りながらお辞儀の練習に余念がない。演奏の練習をもっとした方がいいだろう。

昨年、大き過ぎて本番で脱げてしまったピカピカの靴はピッタリサイズになっていて、成長を感じる。
いつもピアノ教室に通っている駅で降り、ハンバーガーショップで腹ごしらえと時間調整をする。
ドレスにソースが付くんじゃないかとヒヤヒヤしながらパンフレットを再確認した。
可愛らしい女の子が楽しげにピアノを弾いているイラストがパステルカラーの紙に描かれている。
A4を二つ折にした簡素でシンプルなそれはヒトミ先生の飾らない人柄そのもののようだ。
発表は12人、昨年も一緒に発表会に出たお友達は2番目。娘は3番目だ。
最後に講師演奏でヒトミ先生の演奏がある。

会場の部屋は少しわかりにくいらしいし、その日は別の発表会が3組も他のホールであるという。
ギリギリで慌てて行ったらきっと間違えてしまうだろう。4分の3の確率でハズレなのだ。
そんなリスクは冒せないので少し早めに会場入りした。

会場にはわかりやすく案内が貼ってあり、迷うことなく地下のスタジオにたどり着いた。
1番乗りのようだ。やった!
忘れぬうちにスニーカーを黒い靴に履き替えさせる。
かつてダンス発表会のステージによだれかけを付けたまま送り出し、ムギコに殺されかけた記憶が蘇る。同じ轍は踏まないのだ。

続々と生徒さんとご家族が集まってきた。
同じ門下生同士、なんだか勝手に連帯感を感じて手を振ってしまった私に、怪訝そうに会釈する生徒さん。
発表会前の緊張が高まっている時に心を乱すような真似をしてしまったと深く反省していると、お友達ファミリーが登場した。
1年ぶりの邂逅だ。お友達はすっかりお姉さんになっている。
美人ママさんは闘病中のムギコを涙ぐみながら労い、微妙なヘアスタイルをなんとか褒めようと頑張っていた。パパさんは大きな一眼レフカメラとハンディカム、三脚と重装備で娘の晴れ舞台を一瞬たりとも逃さない構えだ。
スマホだけで勝負する私とは心構えが違うようだ。
周りを見回すと大きなカメラを持ったパパさんたちが結構いる。ははーん、みんな子どもの撮影をダシに欲しいモノを買ったパターンだな。私の親父がそうだった。
今度「娘のために必要なんだ」と言ってムギコにバイクをねだってみよう。意外とイケるかも知れない。

開場の時間になり、ベストポジションをゲット!程なく司会の方が発表会の開始を告げた。
主催者の挨拶でヒトミ先生が紹介される。
先生がまず話したのは発表会開催にあたってご協力いただいた方々の紹介とお礼であった。
まず最初に協力してくださった方々への感謝を述べる人柄にますます尊敬の念を覚える。
簡潔な挨拶を終えるといよいよ演奏開始だ。

12名の生徒さんは4歳くらいから高校生くらいの子どもたちだ。娘を含めて1/3くらいの生徒さんは障がいを持っている。
みな晴れ舞台にドキドキワクワクしているのがわかる。
演奏順は年少順のようだ。1番目はメガネが似合う可愛らしい女の子、ニコニコとステージに登場ししっかり演奏している。昨年の我が娘くらいだろうか。トップバッターの緊張など感じさせない堂々とした演奏だ。連弾する先生は暖かい眼差しで見守っている。
お友達と娘は2番手3番手だ。お友達は昨年から一年分の練習の成果を遺憾なく発揮していた。
娘はお辞儀の練習ばかりしていたので、お辞儀は100点だ。肝心の演奏は何ヵ所か失敗していたが、先生の見事なリカバリーのお陰でなんとか演奏を終えた。演奏後はまるで「失敗?してませんけど?」と言わんばかりに満面の笑みで堂々とステージを後にした。相変わらずいい度胸をしている。
他の保護者から「二人とも去年からかなり上達してますね」という感想があったと先生から聞き、親として単純に嬉しく誇らしい。
今回の発表会には娘の発表の他にもう一つ目玉があった。
ラストにヒトミ先生の演奏があるのだ。
ホームページのプロフィールを見て「すごいなー」とは思ってはいたが、実際に演奏が始まると危うくイスからずり落ちそうになった。
普段の優しく穏やかで上品な先生から一瞬で何かが憑依したかのように雰囲気が変わり、会場の空気が緊張に満ちた。
「阿修羅が憑依したのか?」阿修羅とは異なる表情の顔が三面、手が6本ありアシュラバスターが必殺技の神様だ。
「いや違う!手が6本どころではない!これは千手観音菩薩!」
なんとなく後光がさしている。
普段998本の手をどこに隠しているのかはさておき、とにかく圧巻の演奏であった。

普段この先生に娘の「かえるのうた」を連弾させていることに、まるでF1レーサーにベビーカーを押してもらっているような、なんとも言えない申し訳なさを感じてしまう。
記念写真を撮り、自分がひと回り小さくなったような錯覚を覚えつつ会場を出ると天気はすっかり回復していた。「傘を持っている時、雨は降らない」のジンクス通り、結局傘は必要なかった。

実は娘と一緒に私もレッスンを受けている。生まれて約半世紀、鍵盤に触れたことのない私であるが、娘のレッスンに帯同しているうちに弾いてみたくなってしまったのだ。
恐る恐るお願いしてみたところ、快く引き受けてくださった。
小中学での音楽の授業はもっぱらベートーベンやバッハの肖像に落書きに終始していたし、高校では音楽の授業すらなかった。
幸い自宅には娘の為にムギコが購入した電子ピアノ「ローランド君」がある。
真っ白な「ローランド君」はややホスト臭がするもののちゃんとピアノの音がする。
アンパンマンピアノで妥協しなくてよかった。

中村一門の門下生となり、娘の弟分となった私は最近、任侠映画にハマってるせいか、「姉さん。カエルのうたはドからはじめたほうがいいんじゃないかと思いますぜ。」「姉さん!ちゃんと練習しないと破門になりますぜ。」などと言いながら日々ローランド君に向かい娘と鍛錬に励んでいる。
私に才能がないのは承知の上、気合と根性でどこまで弾けるようになるのか楽しみだ。

しかし、いくら上達しようとも発表会のステージに上がる勇気は出なさそうだ。
年少順でいくと間違いなく大トリになる。
折角の発表会を最後に台無しにしてしまうのが目に見えている。
ではなぜ練習するのかって?
日常生活で人に褒められることなどない私が唯一褒めてもらえるのが中村ピアノ教室だからだ。
そして今夜も家族が寝静まった深夜にボリュームをミニマムしたローランド君の電源を入れるのである。

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