ダイアログ・ダイバーシティミュージアム【対話の森】を体験してきました|静寂と暗闇の中で

ダイアログ・イン・ザ・ダーク、ダイアログ・イン・サイレンスを知っているだろうか。
暗闇での対話」「静寂での対話」がテーマの体験型アトラクションだ。
以前からこの施設に興味はあったがなかなか訪れる機会がなかった。
私は漠然と”視覚障害や聴覚障害を疑似体験する場所”と思っていた。
吉祥寺にあるウェルフェアトレードの雑貨屋さんマジェルカの懇親会でダイアログ・イン・ザ・ダークの広報を担当していたヒカルさんお会いした際に話を伺ったところ、その側面もあるが感覚の一つを疑似的に失うことによって、それを補完すべく他の感覚が研ぎ澄まされる体験が刺激的だという。

なるほど。そんな感じなんだ。どんな感じなんだろう?
ますます行ってみたくなる。
「行く時は声をかけてくださいねー。」
そうは言ってくれたが社交辞令だと思っていた。

数週間後、Get in touchという団体の記者会見場で偶然にも再びヒカルさんにお会いした。
Get in touchの広報担当をしているという。

チャリティー団体SMARTのスタッフのミカコさんもGet in touchにボランティアスタッフとして受付におり、ダイアログ・イン・ザ・ダークの話をすると是非行ってみたい!とのことで、じゃあみんなで行こう!となった。

当日はまるで遠足に行く小学生のようにワクワクしていた。
ムギコと娘を同伴しない単独行動も足取りを軽くさせている要因なのかも知れない。
僅かな後ろめたさを悟られないよう、ワクワクを押し殺しながら家を出た。

“対話の森”は浜松町の駅からほど近い場所にあり、初めて訪れた場所だが道に迷うことなくたどり着く。
待ち合わせもスムーズだ。幸先がいい。
受付を済ませると全ての所持品をコインロッカーに入れるよう指示があった。
スマホ2つと財布だけしかない全所持品をコインロッカーに収める。
そういえばスマホを手放すのはいつ以来だろう。なんだか心細さを感じ、すっかりスマホに依存している自分に気づく。

発声禁止・手話禁止と書いてある白い扉の前に集まるよう指示があった。
アテンドのゆうかさんがにこやかにジェスチャーで自己紹介と注意事項を伝えてくれた。
全身+表情(マスクをしているので目だけだが)で表すジェスチャーはミュージカル俳優のように優雅でわかりやすい。
我々3人のグループと大学生と思しき4人組でツアーするようだ。

最初の部屋は”手のダンス”をするらしい。
ゆうかさんが手で円卓に影絵を作って見せてくれた。身振りでマネをするよう促され、7人で円卓に手の影を映した。
だんだん慣れてきて7人で連続して影絵を映すとまるで手がダンスをしているようだ。
手のシルエットだけでここまで表現できるのだと驚く。
他にも、顔の表情だけで表現する部屋があり、そこではゆうかさんの指示で笑ったり、泣いたり、目をクルクルまわしたりする。
全員マスクをしていたが、目の表情だけで意外にも喜怒哀楽はつたわる。
“目は口ほどにものを言う”んだ。
さらには、ジェスチャーを使って様々なゲームをした。そこでは、言葉がなくともここまで意思疎通が図れるのだ、と実感。
言葉は便利なものだと再認識する以上に、言葉によらない「対話」で充分意思疎通が叶うと知った。
逆説的に捉えれば言語という便利なものがコミュニケーションの障壁になっているともいえる。
マスクがなければ表情もツールのひとつとしてもっと役立つだろう。
ゆうかさんのようにジェスチャーで様々な表現ができれば、言語の違いなど超越して世界中の人達とコミュニケーションできるということだ。バイリンガルやトリリンガルどころではない。
ビデオ通話が日常になった現在では通話端末での不自由も軽減されるだろう。手話を含めたボディランゲージの有用性を改めて認識した時間であった。

ダイアログ・イン・ザ・ダークから合流する2名を待ちながらコーヒーショップで休憩する。
Lサイズをtallと称するシャレオツ系カフェにはほとんど入ったことがない私は、サイレンスで長時間口を閉ざしていた後遺症なのか、上手く注文できずメニューに一番大きく写真が載っている〇〇キャラメル・ラテを無言のままジェスチャーで注文するのだった。

ダイアログ・イン・ザ・ダークは2人が合流し計5人となった我々のグループのみでのツアーとなった。
立派なヒゲを蓄えたアテンドの外国人ニノさんはまるでサンタクロースかダンブルドア先生の若い頃のようだ。
「ARASHIのニノではありません。」と掴みのジョークをかましてくる。
白杖の束の中から身体のサイズに合ったモノを選ぶ。ミゾオチとヘソの間くらいの長さがベストらしい。
明るい場所で白杖を滑らせ床の感触を確かめる。
白杖を持つのも初めてだ。
「白杖が何かにぶつかったら”こんにちは”って言ってください。業界では略して杖コンといっています。」
ニノさんの説明はジョークなのか本気なのかいまいちわからないが、あちこちで「こんにちは」「こんにちは」とやっている。
ニックネームで呼びあうルールなので、ニックネームでお互いを自己紹介し、私は「タク」を名乗ることにした。

ツアーは視覚を失った状態で電車で東北地方へ旅をする設定だ。
扉を入ると漆黒の闇だ。少しアドレナリンが出るのか皆の口数が増える。
「なんかある!」「なんだこれ。」「あ、ごめんなさい。」「一番後ろ誰〜?」「私、最後かも!」
視覚で得ていた情報を本能的に補完しようとしているのかもしれない。

足の裏の感覚が柔らかくなり、石ころだろうか時々硬いモノを踏む。最近嗅いでいない少し青臭い草木の匂いがする。
「輪になって座りましょう。」
真っ暗で何も見えない中、どうやって輪になるんだ?としばし悩んでいると誰かが手を繋いでみようと提案した。なるほど、全員両手が繋がれば輪になった状態になる。
座ってみるとやはり床は草で小石や葉っぱなどが所々に落ちている。どうやら原っぱのようだ。
ここでしばらくゲームをしたあと、再び歩き出す。やがて床は硬い感触になり、階段があった。
つい前を行く人のアドバイスと気配を頼りに進んでしまい、白杖をイマイチ有効活用できていない。どうしても既存の感覚に頼ってしまい、新しいツールを持て余してしまう。
私はPCやスマホのアップデートについていけず、いつまでも古いバージョンにしがみついているタイプのオッサンなのだ。

旅も終わりに近づく。いきなり明るい場所に出ると眩しさにやられるとのことで少しずつ扉を開けて目を慣らす。
最後にくぐった遮光カーテンで来た道は見られない。
ロビーの白い内装が眩しい。大きく深呼吸する。真っ暗闇を歩くのはどうも力が入ってしまい呼吸も浅かった気がする。

「みなさんどうでしたか?あなたのLOVEはなんですか?」
ニノさんの問いかけに上手く回答できず下を向く。

ロビーのテーブルで”あなたにとってLOVEとは”の問いに対しハート型の紙に回答する。
とても照れ臭い。

同じ空間にいたもの同士でちょっと気になったことを質問してみた。
「電車何色だった?」
「なんとなくエンジ色かな?」「黄色。」「オレンジ色でシートは青。」
当たり前だがみんなバラバラだった。
「見える」ってなんだろう。私の青はほかの人の赤かもしれない。物体にあたった光の反射を見てるだけなのだ。物体そのものの色が何色なのか本当は誰もわからないんじゃないだろうか。
オレンジ色とピンク色の境界線で父親とケンカになったことを思い出した。
親父は中央線をピンク色の電車だと言ってゆずらないのだ。あれはオレンジ色だろう。

私達が普段”声”という空気の振動で意思の疎通をはかったり、”光り“の反射で物体を認識することはイルカやコウモリが超音波で意思疎通をしたり空間を認識するのと同じ”特殊能力”なのかもしれない。

そんなことを考えながらハート型の紙をガラスに貼る。既に貼ってある無数のハートには様々な”LOVE”が書いてある。これを全て読めばこの哲学的な質問の答えが出るかもしれない。

ダイアログ・イン・ザ・ダークを共にしたメンバーは様々だ。
今回のきっかけをくださったヒカルさんは2回ほどお会いした事があるだけだが、意識の高いステキな方だ。
初対面のヤイチさんはピースボートの職員さんで地球を何周もしているという。パスポートも持たない私とは世界の広さがちがう。
チャリティー団体SMARTの職員、ミカコさんは純真無垢なオーラが眩しい最年少。
妻ムギコの弟ビンちゃんはトランスジェンダーだ。ムギコがママの中に忘れてきた女性らしさを受け継いだのかもしれない。
年齢も性別も職業もバラバラの5人であったが1時間前には感じなかった感情が芽生えていた。
特殊な環境で生じる”吊り橋効果”なのか、ニックネームで呼び合ったからなのかわからないが、このまま解散する気にならなかった。
「この後、みんなで一杯行きませんか?」
普段アルコールを呑む習慣がなく、自分から誘ったことなど一度もない私。
皆二つ返事で賛同してくれとても嬉しかった。
地下の居酒屋でオーダーストップの時間まで時を忘れて語り合い、次回の約束までした。
珍しくほろ酔いになった私は皆と別れた帰りの電車で終始ニヤニヤしていた。
マスクがなければ周囲の乗客はドン引きしていただろう。
数十年ぶりに友人ができたのだ。4人も。それが嬉しくてたまらない。

「あなたのLOVEはなんですか?」
今ならニノの問いかけに即答できそうだ。
「私のLOVEは新しい友人との友情」と。

名称 ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」
所在地 東京都港区海岸一丁目10番45号 アトレ竹芝シアター棟 1F
WEB 公式サイト
Facebook @ DIALOGUEMUSEUM
Twitter @ DialogintheDark
Instagram @ dialogue_in_silence
YouTube @ DIALOGINTHEDARKJ
運営 一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ

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