コムガール(りお)7歳。少し緊張したピアノ発表会

今年もピアノの発表会がやって来た。
今回はキラキラ星と大きな古時計の2曲を演奏するのだ。

キラキラ星はかなり前から練習曲のひとつとしてチャレンジしていたので無難な選曲であったが、大きな古時計は最近聴いて気に入ったらしくピアノで弾いたことはない。
「えっ。」
娘が「大きなノッポのやつ弾きたいの」と言ったとき、思わず先生と私は顔を見合わせた。
(100パー無理だと思うんですけど、、、)
(だ、大丈夫だと思います、、多分、)
一瞬のアイコンタクトであったがヒトミ先生が少したじろいだ気がした。
「よーし!黒い鍵盤が出てくるけど頑張ってね!」
「ハーイ!」
相変わらず娘の返事は軽い。本当に大丈夫だろうか。
今までに2回発表会に出させてもらっているが、発表曲は〇〇でいいかな?という問いかけに娘が頷くかたちで選曲していた。
ところが今回は自ら弾きたい曲を提案してきたのだ。
無理だと決めつけずに娘の希望を尊重してくれる先生に心の中で手を合わせた。

しかし発表会まで2か月しかない。月に一回のレッスンではあと2回でマスターしなければならない。果たして間に合うのだろうか。
自宅で無理矢理ピアノの前に座らせ、スパルタ式で練習させるのは我が家のスタイルではないが、かなり気合いを入れて練習せねば今回の課題クリアは難しい。
娘は自分から弾きたいといった曲が弾けるのがよほど嬉しいのだろう。いつになく積極的に練習している。練習の時は譜面をめくる役と拍手喝采を送る観客の役を親がしなければならないので付き合う我々も一苦労なのだ。
練習を重ねるにつれ、耳が慣れてきたのか娘が上達したのかは定かでないが、ランダムだったピアノの音が徐々にではあるが大きな古時計に聞こえてくる。

私自身もピアノ初心者なので弾きたい曲が自身の手で弾けるようになっていく喜びがよくわかる。
音と音がつながってメロディになった瞬間にドーパミンがほとばしるのだ。この調子なら意外と上手く弾けるかもしれない。

発表会当日の朝、開始時間と開場時間を改めて確認しカレンダーに書き込んだ時間で間違いないことを確認した。
天気は下り坂の予報だし、少し早めに出発してお花屋さんで先生に渡すブーケを見よう。などとムギコと話をしていた。
そろそろ出ようとプログラムをしまい、お知らせの紙をふと見ると(開場の30分前からリハーサル)と書いてある。
「やばい!時間間違えた!」
早めに出発どころかギリギリ間に合わない。
娘のドレスと靴をバッグに放り込み
(なんでしっかり時間を確認しないのよ。アンタはいつも詰めが甘いのよ。)というムギコの叱責を振り切るように娘を小脇に抱えて駅に走った。
乗り換えの電車に乗り込んで遅刻が決定的となったので先生へメッセージを送った(申し訳ありません。少し遅れてしまいます)
リハーサルの真っ最中に携帯など見ないに決まっているが、詫びずにいられなかったのだ。

必要な時ほどいない駅前のタクシー。
配車の電話にも「近くに車いませんね」と愛想のない返事。
歩いて向かう方が早いと会場への道を進む。
容赦ない直射日光を心配するムギコをよそに不完全なスキップで楽しそうに歩をすすめる娘。

10分程の距離を汗だくで移動し会場に着いた。
扉を入ると極楽のように涼しい。
娘をドレスに着替えさせて会場のリハーサルに押し込むとようやく人心地ついた。

娘がリハーサルから戻るとすぐに開場となり、ホールに入った。
発表会は3回目だが、今までで一番大きなホールだ。コンパクトな会場しか知らないので少し驚いた。
娘もいつになく緊張しているようだ。

昨年の発表会もご一緒した生徒さんだけでなく、新たに入門した小さな生徒さんを見て、
娘のはじめての発表会が思い出される。
「かわいいねー」
一般的な子どもより成長速度が遅いとはいえ、我が娘ももうお姉さんの雰囲気だ。
ニコニコするよりは緊張が勝ってしまっているからかもしれない。
娘の番がきた。最初はキラキラ星だ。
上手く弾けている。いい感じだ。この調子で大きな古時計もイケるか。と思ったがそうは上手くいかなかった。
途切れ途切れの音、どうした。練習の成果が発揮できていない。よく見るとグランドピアノの上の楽譜と手元を交互に見る娘の頭が大きく前後している。
自宅で練習している電子ピアノは鍵盤のすぐ上に譜面を置いているので目線を動かす範囲が違うのだ。
暗譜しているキラキラ星は問題なかったが大きな古時計は譜面を見ながらでなくては弾けなかったのだ。
譜面と鍵盤を交互に見ながら一生懸命に音を出す娘になんだか感動してしまった。

とてもゆっくりで大きな古時計に聞こえなかったかもしれないがとにかく最後まで弾き切った。

大きなステージで練習どおりに弾けなかった娘はどんな気持ちだったのだろう。
焦り、緊張、恥ずかしさ、いろんな気持ちの中で心折れずやり切ったのだ。
自分で弾きたいと言った言葉を全うした娘がとても誇らしかった。

演奏を終えたステージ上の娘は緊張が解け、笑顔が戻っていた。
難しい課題を否定せずに受け入れてくれたヒトミ先生のおかげでまたあらたな娘の一面を見ることができた。
今回もじつに実り多い発表会であった。
会場を後に駅に向かう道は慌てふためいていた往路とはまるで別の道のように感じた。
突然降り始めた大粒の雨が、気温と充実感でのぼせた私の頭を気持ちよく冷やした。
娘はゲラゲラと爆笑しながら雨を楽しんでいる。果たして来年はどんな姿を見せてくれるのだろうかと今から楽しみで仕方がない。

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