ある日携帯電話が鳴った。
登録してある番号ではない。
交友関係が広くない私にかかってくる電話は多くない。
間違い電話たまにある。
「もしもし、、。」
恐る恐る電話を取ると、男性の声だ。
「コムギコさんですか?」
どうやらCOMUGICOについての問い合わせのようだ。
そうです。と答えると掲載にあたって色々確認したいとのこと。時間も場所も合わせるから候補日を挙げてほしいという。
電話の主はSMARTという団体の代表であった。
オンラインでの打合せを提案したが、モニター越しでなく直接対面したいという。
この秋は様々なイベントに参加申込みをしており、週末は埋まってしまっていた。
申し訳ないと思いつつ平日の夕方にホープベアーギャラリーに伺うアポイントを入れさせていただいた。
銀座のど真ん中にあるアートギャラリーに少なからず興味があったのと、銀座の街には懐かしい思い出もあり久しぶりに銀座の空気感を感じたいとも思ったのだ。
まるで迷路のように張り巡らされた地下鉄の乗り換えは一筋縄ではいかない。
一口に銀座駅と言ってもある程度出口を見極めないと地上にでてから大通りを渡れなかったりすることがある。
私が中1から中2まで通っていた中学がその名も銀座中学校。銀座の街は懐かしい街でもある。その年頃の少年が遊ぶ場所などどこにもなく、映画のチケット売り場(チケットぴあ)に併設された延々と予告編が流れている無料のミニシアターで時間を潰したり、松屋デパートの地下で試食グルメを楽しみ、並木座という古めかしいリバイバル専門の映画館で6本立ての白黒映画を半日がかりで観た思い出がある。
ホープベアーのHPにあるアクセス通りに歩いて行くとギャラリーのある建物はすぐに見つかった。
繁華街と言えど渋谷や新宿とは違うハイソ(死語)な雰囲気が漂う銀座。
シャレオツ(死語)なビルの自動ドアを通りエスカレーターで3階に上がっていく。
あちらこちらの鏡面仕上げに自分の姿が映る。
そこには仕事帰りのくたびれたオジサンサラリーマンがいた。
うーむ場違い感がすごいな。
もとより人目を気にするタチではないのだが、相手や周りの人に不快な思いはさせたくない。
ベルトの穴を一つ縮め背筋を伸ばしてみたが残念ながら余り変わり映えしなかった。
フロアにつくと一際明るいその場所はすぐにわかった。
傷みの酷いビジネスシューズ、シワシワのスーツにユニクロのダウンジャケット。肩紐が千切れそうなビジネスカバン。もれなく全身ブラックの私はさぞかし浮いていたに違いない。
明るく楽しいポップでキュートな福祉を目指す団体の代表には到底見えないだろう。
SMARTの代表が他人を外見で判断しない人であることを祈りつつ、実は中身も大したことないことを見透かされないようにとも祈った。
「画廊」のイメージとは真逆の雰囲気である白基調のギャラリーはカラフルな作品をよりポップに演出している。
銀座のギャラリーという空間には一生縁がないと思っていた。
「こんばんは〜、、、」
萎縮している私は何と言って入ればいいかわからず、間の抜けた挨拶をしながらギャラリーに足を踏み入れた。
色鮮やかな絵や立体造形がセンスよく並んでいる。私の場合、高額であろう家賃が脳裏に浮かび、なるべく沢山展示しようとしてドンキホーテ状態にしてしまいそうだ。
すぐに奥のパーティションから代表の鈴木さんが現れ、こちらを手招きしている。
「おじゃましまーす、、、」
またも間抜けな挨拶をしつつ恐る恐る歩を進める。
パーティションの中に入り、ガサゴソと名刺入れとパンフレットを取り出しご挨拶をする。
HPで拝見した通りのダンディな鈴木さんとスラリとした美人のスタッフ馬場さんが席につく。
鈴木さんは過去にお子様を亡くし、自身の生業であるアート作品の販売事業を通じて支援団体に支援をしている。
ロメロ・ブリット氏の作品を主軸にしているのはそのポップで明るい作品の素晴らしさのみならず、ロメロ氏の社会貢献活動に賛同していることも大いに関係あるだろう。
「芸術や絵についてはシロウトで実は余り興味もないんだ。」
いきなりの爆弾発言である。
とても銀座のギャラリーで絵画販売している人の言葉とは思えず、我が耳を疑った。
「ただ、ロメロの作品はそんな私の感性にも響き感動を与えてくれるんだ。こんなアーティストはなかなかいない。」
自身の感性に揺るぎない自信があるのだろう。
私は「物語」が好きだ。
耳触りの良い曲は数多あるが、アーティストやミュージシャンの背景にある物語を感じるとき、感動はさらに増幅する。
工業製品でも開発者の想いを感じるエピソードなどを聞くと素材が金属であろうと何か温もりを覚え愛おしくなる。
ロメロ・ブリット氏の作品にもそんな「物語」を感じるのだ。ロマンと言い換えてもいい。
そして作品をプロモートするSMARTの活動にもそれを感じた。
鈴木さんは言った。
「障がいや病気を持つ子どもを支援する団体をロメロの作品を販売することでサポートしたい。
子どもたちのサポートは皆さんプロフェッショナルだが、資金調達に苦慮されている。
COMUGICOさんもそうでしょう?」
図星である。身銭を切って活動することは美徳ではなく、福祉の衰退に手を貸しているに他ならない。
ちょっと恥ずかしくなりつい俯いてしまう。
「ただ、子ども達を支援することについてはSMARTはシロウトです。得意な分野が違うからこそサポートし合う必要があると思うのです。我々に障がいや病気を持つ子ども達に対する支援について教えてもらえませんか?」
私は再び面食らった。
自分よりもだいぶ年下の若輩者にストレートに教えてほしいと言える度量の深さ。
年上というだけでふんぞり返っている連中に爪の垢を飲ませたい。私も少し飲んだ方がいいかもしれない。
SMARTを発足するにあたり専任スタッフとしてその任にあたる馬場さんも目をキラキラさせて話を聞いている。彼女も身内に障がいを持つ方がいるという。
(児童福祉のプロだと思われてしまった。ど、どうしよう、、、。)
知ったかぶりや中途半端な知識で防御する術を持たない私は真っ直ぐに突き刺さる二人の視線に身を焼かれる気がした。
「わ、私もまだまだ発展途上の身ですので、勉強させて頂きたいと思います。お、教えるなんておこがましいですが、な、なにかお手伝いさせて頂けたら、う、う、嬉しいです!」
しどろもどろで返事をした。
SMART自体は発足間もない団体かもしれないが、しっかりした思想とスタンス、それを支える土台となる鈴木代表の経験や人脈は我々COMUGICOなど足元にも及ばない。
ひとしきり話しを終えてギャラリーの作品を見させて頂く。現代ポップアートの巨匠といわれるその作品はどれも存在感溢れ美しい。
太い輪郭線で縁取られたカラフルな絵はステンドグラスのようだ。裏から光が射し込んでいるかのように空間を照らしている。
私もかつてとある作品に一目惚れし、絵を買ったことがある。
幻想的な風景画であったが、「絵」を買うというより、「窓と景色」を手に入れた感覚であった。
ロメロ氏の作品を飾るのは照明器具を設置することに近いかも知れない。その作品は部屋を明るくするだけでなく気持ちまで明るくするに違いない。
閉店間際まですっかり長々とお邪魔してしまったことを詫び、ホープベアーギャラリーを後にした。
外はすっかり夜の銀座だ。
地下鉄の階段を降りながら思った。
人との接触が憚られる日々が続きメールやLINE、メッセージでのやりとりが多く、オンラインで繋がることにいつのまにか慣れてしまった自分がいた。
メールなどの文章はじっくり考えて発信することができるし、約束事のエビデンスにもなる。
実に便利だ。
しかし、表情や仕草を伴わない文字の羅列は本来意図したニュアンスが伝わりずらい部分もある。
今日の体験はメールのやり取りやモニター越しの対面では決して得られないモノであった。
HPを見れば情報は記載してある。理念や信条を知ることもできるだろう。
しかし、鈴木代表の熱い想いや馬場さんのキラキラした眼差しは直接お会いしなければわからなかったに違いない。
私も本来はアナログ人間を自負していたはずだったがいつの間にやらインターネットに囚われていたのかもしれない。
SMARTの代表、鈴木さんは愛する我が子の誕生と別れ、バブル景気とその崩壊や大きな災禍。私の何倍も天国と地獄を生きてきた先輩。
仕事場でも追いかけていた団塊の世代と呼ばれるバブルを駆け抜けてきた豪快な先輩達が一線を退き、その背中が見えなくなってしまった。
鈴木さんのバイタリティ溢れる姿にあの背中を見失ってはダメだ。と本能が囁くのだった。
名称 | 一般社団法人SMART |
所在地 | 東京都中央区銀座5-7-10 EXITMELSA 3階 |
WEB | 公式サイト |
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