まぜこぜ一座の「歌雪姫と七人のこびとーず」を観劇するこむぎこーず

春の気配が漂い始めた3/5、待ちに待った日がやって来た。

家族で舞台観劇をするのは娘が物心ついてからは初めてである。膝上に乗せるには育ち過ぎているので1席分確保している。
万が一騒ぎ始めたら脱出しやすいように通路側の席にしよう。始まる前にトイレに行かなきゃ。などと話している間に電車は渋谷駅に到着した。
渋谷駅周辺は大規模な再開発で目まぐるしく変化しており迷子になりそうだ。
ペデストリアンデッキで国道を渡り急勾配の坂を登る。
まだ開場時間まで1時間以上あり、慌てる必要など全くないのだがなんだか気持ちが急く。
先月揃って半世紀目の誕生日を迎えた私とムギコ。娘のゆっくりな歩調に合わせてもハアハアと息が上がってしまう。
坂の上にある会場の”渋谷区民センター大和田”に着く頃には、二人とも額にうっすらと汗をかいていた。
娘はキャッキャとはしゃいでいる。ご機嫌は良さそうだ。
乗り込んだエレベーターの鏡には赤・黒・黄色の色違いのCOMUGICOトレーナーを着たまるでヒーロー戦隊のような三人組が映っていた。
先程から妙にすれ違う人達の視線を感じていたが、これが原因だったのか。
私は赤らむ耳を感じながらそっとアウターのファスナーを上げた。

6階にある”伝承ホール”のロビーには気の早い人達の姿がすでにチラホラ見受けられたが、まだそれほど混雑はしておらず、無事Get in touchスタッフの方々にご挨拶することができた。

“月夜のからくりハウス”のフォトブースで写真を撮り、娘のトイレと腹ごしらえの為に一度外に出て開場時間の20分ほど前にロビーに戻るともう扉の前には5,60人くらい並んでる。
出遅れたか?と思ったがなんとか目星をつけていた座席を確保することができた。
「三人分のダウンジャケットをエコバッグに押し込み持ち手を縛れば即席のクッションになるんじゃない?」
ムギコのナイスアイデアで娘の座面を嵩上げした。ヒーロー戦隊コーデの我らを見て演者が吹き出さなければいいが・・・。

子どもNGの劇場公演も多々ある中で、子連れで観劇できるのは嬉しい。
また桟敷席を車椅子スペースに変更したり、配慮の必要な家族の為の「家族席」の用意もあり「誰も排除しない」を徹底している。

いよいよ開演だ。
暗転と最初の音でびっくりした娘が一瞬ぐずりかけるが、東さんの明るいトーンの声とコミカルで表情豊かな手話通訳さんのおかげで持ち直し、以降は終始ご機嫌な娘であった。

ドラァグクイーン・ドリアンさんの圧巻な歌声と存在感で始まる物語はタイトルからわかる通り、白雪姫をオマージュしている。
小人さん達と東さん、ドリアンさん、三ツ矢さんがストーリーを牽引するコメディだ。
七人のこびとーずを擁するエンターテイメントグループが、”歌雪姫”という非の打ち所がないニュースターの噂に危機感を感じ、自衛の為と称してネット上に”歌雪姫”の根も葉もない誹謗中傷を書きまくる。

その物語の中で様々な特性を持つ演者の方々がパフォーマンスを披露する。
複数のパフォーマーによるしのぎを削るような競演にただ圧倒される。
バックのスクリーンにはパフォーマーの過去や象徴的な映像が流れ演者の”背景”を映し出している。
花道脇の席は間近を演者が通過したり、花道での進行を目の前で観られる特等席だ。
娘は目をキラキラさせて見入っている。時折、感極まって奇声を上げてはムギコに注意されている。

ストーリーは進んでいくが歌雪姫はなかなか姿を現さない。
思わせぶりな鏡のシーンでチラリとそれらしき後ろ姿が見えるだけだ。
東さんの一人二役なのだろうか。想像が膨らむ。

時折、クスリとさせるエッセンスが台詞の端々に現れる。
インターネットでの誹謗中傷を繰り返す東さんら三人組をスリーディスリーズと呼び、往年の女性コーラスグループ、スリーディグリーズになぞらえたり、時折出てくる「ズビズバ〜パパパヤー」のフレーズは左卜全(ひだりぼくぜん)の”老人と子供のポルカ”だ。
1960年代後半〜1970年代前半の流行のパロディなんて誰がわかるのだ。と思っていたら観客席のあちこちからはクスクスと笑い声が聞こえた。
そう言えば割と御年配の方々が多い事に気づく。
私はGet in touchの「まぜこぜの社会を作る」活動をなんとなく若い世代が自分達の未来に向けて活動していると思い込んでいた。
しかしよくよく周りを見回せば主催も演者も観客も老若男女様々だ。80代と思しき方から、7歳の我が娘まで多様である。
年配者は保守的で革新的な活動は若者が行うものという固定観念が私の中にあったことに驚いた。
無意識のうちに革新的な活動から年配者を排除してしまっていたのだ。
ステレオタイプな己れの思考を恥じると共に、年配の方々が次の世代の為にこうした社会活動に参画、賛同してくださることに改めて感激した。

持て囃される歌雪姫。こびとーず達まで自分達から離れてしまうと焦るスリーディスリーズ。ますますエスカレートする誹謗中傷。
ついに歌雪姫は心労から体調を崩してしまった。
「こんな物の中に真実など無い!」
こびとーずの1人がスマホを掲げ絶叫する。
我に返るスリーディスリーズ。
自衛の為、仲間の為にやったことなのにとうなだれるドリアン。

「晒し者になろう!」
「晒し者になろう!」
「晒し者になろう!」
「晒し者になろう!」
「晒し者になろう!」
「晒し者になろう!」

こびとーず全員が一人一人順番に叫ぶ。
最初は聞き間違えかと思った。
“魅せ者”ではなかったのか。
“晒し者”を観に来たつもりはないのだ。
何故、ステージ上の彼らがこのセリフを次々に叫ぶのだ。
しばし混乱する。強烈なカウンターパンチを浴びて急激にステージと距離ができたと感じた。

我に返るスリーディスリーズとシンクロさせるためにあえて冷や水を浴びせたのだろうか。
そんな中清らかな歌声で佐藤ひらりさんのアメージンググレイスが始まる。なんだか浄化されるような時間である。

そしてついに歌雪姫が目覚める。
息を呑む客席。隣の人がゴクリと唾を飲む音が聞こえる。
ジャジャーン!
スクリーンにバーンと大きく映し出されたのはヒゲ面のオッサンである。
カメラチェックで撮ってしまったカメラマンか?
次の瞬間ヒゲ面のオッサンが満面の笑みで言った。
「よう!オレが歌雪姫だ!宜しくな」
ドラゴンボールの孫悟空ばりの自己紹介に呆気にとられる客席。

ビックリしたが、すぐに車椅子に気付いた。ロックバンドROGUE(ローグ)の奥野氏だ。
おもむろに流れる聞き覚えのあるイントロ。
What a Wonderful World(この素晴らしき世界)は反則だ。ズルーい。
大好きなメロディに涙腺が条件反射をおこす。
英語がカラキシ苦手な私でも「緑の木々」や「虹」「青空」「こんにちは」「みんながアイラブユーって言ってる」あたりの単語は聞き取れる。
実際は素晴らしいことばかりの世界じゃないけど、みんなで素晴らしい世界を造ろうじゃないかと呼びかけている気がする。
この曲を歌うには歌唱力以上にバックボーンが必要だと思う。
ルイアームストロングの原曲は別にして奥野さんのカバーはジョーイラモーンに匹敵するカバーだと感じたのは奥野さんに堅牢なバックボーンがあるからなのだろう。

三味線の弾けるような音色が花道から聞こえ、ラップ、ドラム、バイオリン、アコーディオンの短いセッションの後、両声類のシンガーソングライター悠似さんの歌声にのせての”お祭りマンボ”が始まる。
花道、上手、下手から続々とパフォーマーが姿を現し、2番3番をひらりさん、ドリアンさんが引き継ぎ素晴らしいシンガーたちのリレー。
舞台上の密度と比例して盛り上がりは最高潮を迎える。
演者が登場するたびにそのパフォーマンスシーンが脳内で再生され、拍手に力がこもる。
ステージが埋まっていくにつれ、拍手する手が熱くなってきた。
全員ステージに乗り切れるのか少し心配になる。
裏方さん達やスタッフの方々も次々と呼び込まれステージ上で紹介される。
こんなにも多くの方々が僅か1日2ステージのために尽力していたことに驚かされる。
余力を残さず全力を尽くした晴れ晴れとした笑顔で埋め尽くされる舞台。
お祭り騒ぎの大騒ぎの中、ゆっくりと緞帳が降り客席が徐々に明転するがなんだか腰を上げる気にならない。
いい映画を観たあとエンドロールが終わっても余韻に浸っていたいあの感覚だ。

隣の娘は明るくなった場内をキョロキョロと見回し、「楽しかったね!すごかったね!」と言うように私を見てニコニコと笑った。

様々なパフォーマンスが津波のように押し寄せ、圧倒されっぱなしの2時間であった。
手を繋ぎ跳ねるように歩く娘を見下ろしながら、娘と同じ障害を持つダンサー達も出演していたあの舞台に娘が立つ姿を想像してみようとしたがちょっと想像がつかなかった。
しかし私の貧弱な想像力で想像できないからといって、不可能ということではない。数年前はベビーカーに乗った娘とこうして渋谷の街を手を繋いで歩くことなど想像できなかったように。

極上のフルコース料理を満腹になるまで食べたような満足感に満ちたステージだったが、魚の小骨のように喉に引っかかっている「晒し者になろう!」という台詞。
素晴らしいエンターテイメントの中に仕込まれたこの違和感も東さんの企てなのかもしれない。
楽しかった。感動した。だけでは終わらせない。
「食い逃げは許さないわよ〜」
スリーディスリーズの声が聞こえたようなきがした。

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