フィンランドの映画「パンクシンドローム」を観た。
ある日の夜、日付が変わる時刻。いつものルーティンで映画を見ようとiPadの電源を入れた。
私は映画が好きだ。特にB級映画と呼ばれる作品に目がない。
誰が何のために作ったのか理解に苦しむ作品や、名作にはない奇想天外な展開、美男美女とはいえない親近感の湧く俳優陣。
特に興行的な成功を度外視したニッチなテーマの作品からは「赤字上等!俺たちが作りたいから作ったんだ。文句あっか?」という観客に媚びない姿勢が潔く気持ちいいのだ。
「パンクシンドローム」もそんな匂いがプンプンしてくる映画だ。
なんてったって知的障害者によるパンクバンドのドキュメンタリー映画なのだ。
“かわいそうな障害者が一生懸命やってます”的な作品でないことを祈りながら再生ボタンを押す。
冒頭からライブシーンだ。
「うわっカッコいい!」
当たりを確信する。
ライブシーンで映るオーディエンスは普通の健常者だ。中にはハードコアパンク・ファッションの若者もいる。
バンドのメンバーは
ボーカル:カリ
ギター :ペルッティ
ベース :サミ
ドラムス:トニ
映画の構成としてメンバーそれぞれのミニストーリーを織り交ぜ、メンバー相互の人間関係やツアーの様子がテンポよく進んでいく。
メンバー同士の揉め事や関係修復のプロセス、メンバーの恋愛事情などがとても豊かに撮られている。
知的障害者ならではの正直な表現。というか演技ではない表情がなんとも愛おしい。
だが、パンクはパンクだ。歌詞は過激で正直だ。英語も理解できない私は当然フィンランド語などわからないので字幕が頼りなのだが、感動的な歌詞が胸に刺さったりはしない。
華麗なテクニックと複雑なメロディーにウットリすることもない。
おしゃれな言い回しや比喩などないストレートなメッセージ(というかほとんど愚痴)をシンプルなコードと不安定なリズムに乗せて叩きつけてくる。
これは悪口じゃない、パンクロックの真髄だと思う。
好きになれない人もいるだろう。いや、そんな人のほうが遥かに多いと思うが、私は大好きなのだ。
北欧は福祉が進んでいると聞くが映画の随所にそれを感じる。
街を歩く人が「あなたパンクバンドのボーカルよね!」とカリに気軽に話しかけたり、ライブでの観客との関係性も健常者と障害者の隔たりなど感じない。
グループホームのシーンもとても居心地が良さそうであった。
足の爪まで切ってくれる福祉サービスに対して「オレの足の爪を切るな!フットケアなんてクソ食らえ!」
とライブでシャウトしている次のカットで、くすぐったさを堪えながらまんざらでもない表情でフットケアされてるシーンでは思わず吹き出してしまった。
バンドのマネージャー的な人物が、個性豊かな4人を見事な距離感でサポートしているのにとても感心し驚いた。
家族や彼らを取り巻く環境も見ている限りとても理解があるようだ。
息子が可愛いくて仕方ない両親とまだまだ自立する気のないトニ(ダウン症:ドラム)。
トニを自立させようとグループホームへの入所を進める両親は共依存になりがちな家族関係上手く解消している。
いたるところで日本との福祉の違いを感じたが、そんなことよりバンドのカッコよさ、メンバーの魅力にすっかりやられてしまった。
とにかくみんなに観てほしい映画であった。