【歌雪姫と七人のこびとーず】まぜこぜ一座 月夜のからくりハウス 記者会見へ行きました

よくTVで映画などの製作発表記者会見を目にすることがあるが、今回ご縁があって東ちづるさん率いる まぜこぜ一座の「歌雪姫と7人のこびとーず」の製作発表記者会見場に入る機会を頂いた。

女優の東ちづるさんをご存知だろうか。
全く芸能に興味がなくTVも見ない我が父でも知っているほどだ。まあ知らない人は殆どいないだろう。

その会見場は渋谷区役所の7階にある会議室だった。
渋谷駅から小走りで区役所までの登り坂を上がってきた私は区役所に着く頃には若干息が上がり、額にうっすらと汗をかいていた。
区役所の窓口時間は過ぎている時間であったが、まだ多くの方々がデスクで執務している横を通り過ぎ、目的の会議室へ向かう。
受付で団体名を告げ、中へ入ると丁度会見が始まったところであった。

100人近くの人がいるからなのか、空調の設定温度なのか、はたまた会見に対する期待感からなのか部屋の外より、明らかに熱気がこもっている。
若干出遅れた私は入口脇に居場所を定め上着を脱ぎバズーカ砲のようなカメラを構える人の隣りで若干引け目を感じながらスマホを取り出し動画のスイッチを入れた。

会見席には出演者の方々6名が座り、その右側に座長である東ちづるさんが今回の舞台について想いを話している。

私の場所からは東さんの表情はよく見えないが、スピーカーから聞こえるその声はとても明瞭で弾んでいる。スマホをズームすると舞台衣装を纏った東さんの屈託のない少女のような笑顔が映った。
こんなに大勢の前で淀み無く喋ることができるなんて流石だなぁと妙に感心してしまう。

東さんがなぜ”まぜこぜ一座”を率いて様々な特性を持つ演者で舞台を行なっているのかを知り、その理念と行動力にますます引き込まれてしまった。
「障がい者を見世物にするな!」との声に、「見世物じゃございません。見られてナンボの”魅せ者”です。ウチのパフォーマーは見た人達を魅了するんですよ。」
とにこやかだ。
なんとなく”インクルーシブのジャンヌ・ダルク“をイメージしていた私は猛々しさなど微塵もない東さんにいい意味で裏切られた。

「障がい者を見世物にするとはけしからん」
そういった声は決して悪意あるものではなく、むしろ善意からくるものなのだ。
善意の声と真っ向から対峙しても並行線の距離は離れ、分断の溝をより深くするだけだ。
東さんのトークはまるで正義感という武器を持った「良識」という暴漢をヒラリと躱し、そのまま手を取りチークダンスを踊っているようだった。

東さんからパフォーマーの紹介があり、それぞれから想いのこもったコメントがあった。
彼らは皆、自らの特性を個性として前面に押し出し、胸を張って自己紹介をし舞台やまぜこぜ一座への思いを語った。

写真は右から大前光市さん(義足のダンサー)、後藤仁美さん(小さなモデル・俳優)、東ちづるさん(俳優・Get in touch代表)、佐藤ひらりさん(全盲の現役音大生シンガーソングライター)、ダンプ松本さん(女子プロレスラー)、三ツ矢雄二さん(声優)です
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大前光市さん(義足のダンサー)
パラリンピックの開会式でもそのパフォーマンスを披露した世界的なダンサーである彼は、
義足をハンディキャップどころか武器としている。光る義足を携え、その中に仕込んだ紙吹雪を撒き散らしていた。


佐藤ひらりさん(全盲の現役音大生シンガーソングライター)
パラリンピックでは開会式で国歌を独唱した日本代表シンガー。なんと生歌でアメージンググレイスを披露してくれた。
まさにamazing!
スティービーワンダーとの共演が待ち遠しい。


後藤仁美さん(小さなモデル・俳優)
パラリンピックの閉会式ではドラムも披露したマルチな才能を持つ彼女。朴訥とした語り口の随所に熱いパッションを感じた。
かつて小さなモデルのファッションショーの会場を突然利用できなくなった時に発したSOSを期に東さんと繋がりができたという。


ダンプ松本さん(女子プロレスラー)
言わずと知れたヒール(悪役)レスラー。そのトレードマークのサングラスと竹刀を持った姿の恐ろしさに当時幼かった私は震え上がったものだ。
会見ではサングラスはしていたものの、舞台やメンバーの素晴らしさを語るその声は穏やかで優しい。かつて日本一恐れられた彼女は、マイノリティの痛みを日本一わかっている人かもしれない。


三ツ矢雄二さん(声優)
子どもの頃からゲイの自分を受け入れ、隠すことなく生活してきたと三ツ矢さんは自然体で話す。マイケルJフォックスや上杉達也の声などで日本中の人にお馴染みの三ツ矢さんが公言してくれることがどんなにLGBTQの認知にプラスに働くのか想像に難くない。


マメ山田さん(日本一小さい俳優、手品師)
なんと御歳77才!
まぜこぜ一座の最長老。発足当初からのメンバーだという。東さんとの軽妙なやりとりはなんとも心地良い。
今よりずっと厳しい優生思想の中を生きてきたとは思えない明るさにただただ畏敬の念を覚える。


彼らの個性溢れる自己紹介にはマイノリティ=可哀想などという図式は一切なかった。むしろ私などは一介のモブキャラに過ぎないことを痛感するほど強烈な輝きを放っていた。

明るく朗らかな会見の冒頭で東さんが一瞬だけ残念そうな表情を見せたのは、2020オリンピック・パラリンピックのその後に話が及んだ時だ。
高まったインクルーシブの機運が尻すぼみになってしまった感があるという。
たしかに2020オリンピック・パラリンピックを前にしてインクルーシブ、共生社会が声高に叫ばれていたが、一過性のブームで終わってしまうのではないかという危惧は当時から私も感じていた。

2020のレガシーは競技場を残すことではなく、インクルーシブな社会を醸成することだという東さんの想いには私も大いに共感するところだ。
とまれ、オリパラの開会式や閉会式でのパフォーマーの活躍やプレイベントでの啓蒙活動は一般社会にまぜこぜの世界を垣間見せたことは間違いない。
オリパラの準備期に蒔かれたまぜこぜの種はオリパラで芽吹いた。この芽を育て開花させ実らせるところまでは実行委員会は残念ながら感知しないらしい。
しかし、Get in touchをはじめ様々な団体が大切にこの芽を育んでいることを私は知っている。
3/5に渋谷でGet in touchの大輪の花が咲くのは間違いない。
この記者会見を見てそれを確信した。

Get in touchの企ては3/5の1日だけでは終わらない。
この日開花したまぜこぜの花はその後、アナザーストーリーと併せて映像記録として結実する。これが新たなまぜこぜの種としてレガシーとなるのだ。
そしてこの種は日本中、世界中で発芽するだろう。
その始まりの瞬間3/5が今から楽しみで仕方ない。

そんなことを考えながら東さんをズームすると、にこやかで美しい表情のまなざしの奥に揺るぎない決意と確信の炎が見えた。
その姿にやはりジャンヌ・ダルクの姿がダブるのだった。

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