コムジャン製作記

深夜日付が変わる頃、ピアノの自主練を終えた私は長年の計画をついに実行することにした。
「さてと、、、」
クローゼットから娘と私のライダースジャケットを取り出し、フローリングの上に並べた。
身長120に満たない娘のためにネットを探し回ってやっと見つけた小さな黒い本革のライダース。少し躊躇する金額だった。
そして今まで着ていたモノが全く着られないことに気づいて急遽購入した自分のライダース。娘のライダースの半分にも満たない額のノーブランドの中古品だ。

バイクを乗り回していた若い頃、ロッカーズと呼ばれる古いイギリスのモーターサイクルファッションに憧れ、ペイントと鋲、ワッペンやピンバッジで装飾したライダースジャケットを常に着ていた。
さすがに電車に乗るのは憚られるのでもう20年くらいクローゼットの肥やしになっている。

久しぶりに革ジャンをカスタムしたい。
そんな創作衝動を抑えきれなかったのは、あちこちで行われているアートイベントで様々な作品を目にしていたからかもしれない。

「後戻りはできないぞ。革ジャンがパーになるかもしれないぞ。本当のジャン・パーだ。そのまま着ればいい。ペイントはリスクが高い、やめておけ。」
頭の中で理性を司る部分が説得してくる。

「だまれ!だまれ!塗料も道具も100均で揃えたんだ!もうすぐ夏だぞ。早くしないとまたサイズアウトしちゃうぞ!全部ムダにしないためにも塗ってしまえ!」
衝動を司る部分の意外と理論的な反論に理性はどこかに行ってしまった。

黒地のモノはまず白でベースを作らなければならない。塗料の隠蔽力だけでは黒に勝てないのだ。プリントアウトしたロゴマークを切り抜き、配置・バランスを決める。
配置をマークしたら塗料がはみ出さないようにマスキングして白の缶スプレーを吹く。
直角方向を意識して少し遠めから吹くのがコツだ。吹き始めと折り返しはロゴマークから離れた部分まで大きく往復させる。
「もう少し吹きたいな」と思うくらいでやめるのが正解。
マスキングを剥がした後はマジック、ペイントマーカー、塗料を駆使してひたすら手描きする。
シンナーの匂いがプラモ少年だった幼少期の懐かしい記憶を甦らせる。

スズメのさえずりに気がつき、時計を見ると作業開始から5時間が経過していた。
作業に集中していたからか、シンナーの匂いにハイになっていたからなのか定かではないがあっという間に描き上げてしまった。
明るくなり始めたカーテンのレールに塗料がくっつかないように慎重にハンガーを掛けた。
大きさ、バランス共に満足のいく出来だ。近くで見なければなかなかいい。
特注したCOMUGICOワッペンをどこにつけよう。バッジはどう配置しようか。などと考える
のもまた楽しいのだ。

久しぶりに何かを成し遂げた達成感を味わっていると、バタンとドアが開く音がしてムギコが起きてきた。
「臭っ!何してんの⁈あ、革ジャン塗ったんだ。」
ハンガーに掛かる革ジャンを一瞥してひと言。
「へー、いいじゃん」
ムギコにしては最高の賛辞に少しホッとした。
トイレを済ませてノソノソとベッドに戻るムギコを見送り、換気のために窓を開けると革ジャンの季節の終わりを告げる初夏の青空が広がっていた。
時間切れ。タイムアウトだったようだ。
「次のシーズンまで体型を維持しなければ、、、。」
とてつもなく大きな目標ができてしまい、一瞬途方にくれたが、健康診断の度に下されるメタボ判定と高コレステロール値を改善するチャンスだ。
徹夜とシンナーでいつにも増してポジティブな思考になっていた私は朝焼けに向かい大声で
「ダイエット頑張るぞー!」
と誓うと、
「うるせぇ!」
やまびこのようにムギコの怒声が帰ってきた。

皆さんが革ジャンにペイントする際はくれぐれも換気よくしてくださいね。

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