Borderless Kids × Takako Noel 写真展『その視線たちの真ん中に立つと』

2024,04,02

写真展『その視線たちの真ん中に立つと』開催のごあいさつ:Borderless Kids代表


渋谷の街は再開発の真っ只中で目まぐるしく変化していて、少し前までは通れた場所が迂回対象になっていたり、目印にしていたモノが移動していたりして若干迷子気味だ。
工事の仮囲いで狭くなった場所に大きなスーツケースを持った外国人がたむろしている。
まるで動脈瘤に妨げられた血液のような人波にフラストレーションを感じつつ目的の建物ヒカリエを見上げた。
昨年の夏にborderless kidsの高橋さんにお声がけを頂いた写真撮影会の展示会が今日からこのヒカリエで始まるのだ。

モデルに抜擢して頂いた娘とムギコは先に会場に向かっており、私は仕事帰りに現地で合流する段取りである。
オープニングイベントでフォトグラファーのNoelさんと水泳のパラリンピアンでモデルの一ノ瀬メイさんによるトークイベントがあり、是非とも聴きたいと思っていた。
渋谷の新たなランドマークの最上階に上がるとエスカレーターのそばでまさにトークイベントが始まるところであった。
ギリギリセーフだ。
トークイベントに先立ってモデルを務めた子ども達の紹介があり、娘も前に出て紹介してもらった。たくさんの大人を前に子ども達は皆緊張しており、娘も顔をこわばらせながら小さな声でなんとか名前を言うことができた。
あれ?舞台度胸が強い娘だったが、最近は緊張することが多い気がする。羞恥心が芽生え始めたのは成長の証しなのだろう。
トークイベントが始まった。
プロのアナウンサーによる軽妙でリズミカルな進行により2人からさまざまな言葉が引き出されていく。
Noelさんは現在メキシコに移住しており、現地での生活をとても楽しそうに話してくれた。屈託ない笑顔からは夜の渋谷には似つかわしくない夏の太陽のようなオーラを感じる。
素足で子どもと芝生を駆け回って撮影していた新宿御苑でのあの日といい意味で何も変わっていない。
なぜ今回子どもを被写体に撮影することになったのか?と言う問いかけに、Noelさんは
「最近感じにくかった純粋なひかりを子どもに感じたから」
なるほど。子ども笑顔にはたしかに明るさを感じる。撮影時、初夏の晴天の下芝生ではしゃぐ娘の笑顔は太陽に負けず劣らず輝いていたっけ。

一ノ瀬メイさんのお話しも実におもしろかった。
右手に持つハンディキャップのためにできないと決めつけられた反発として始めた水泳。
自分の声を届けるために結果を残して発言力を上げたという。
ただ水泳が大好きというわけではなく、自分の言葉を届けるために色々やった結果、水泳で結果が出たという。

印象深い言葉があった。
ストイックさについての質問だったと思うが、
その質問に対して
「ストイックであることは必ずしも良いことばかりじゃないと思います。自分に厳しい人は他人にも厳しく接しがちです。なぜなら人は自分の尺度を他の人にも当てはめてしまいがちだから。無意識に持つ物差しが怖い、それぞれの物差しが人と違うことを認識することが大事なのです。」

なるほど。(自分に厳しく、他人に優しく)がよしとされてきたが、確かに自分の基準を他人に当てはめてしまうことは多々ある。

・「なんでこんなことも出来ないの!」
→ 私に限らず誰でも親や先生に言われたことが
あるはずだ。

・「ニンジン美味しいのになんで嫌いなの?」
→ シイタケが死ぬほど嫌いな奴がニンジン嫌い
の友人に言っていたので吹き出した。

・「パンクロックのどこがいいの?ほぼ騒音だ
よね。」
→ ぶん殴った。(高校生の時)

尺度の違いを受け入れられないから争いが起こる。それぞれの価値観を自分の物差しで測ることをやめれば戦争など起こらないのだ。

トークイベントの最後に質問コーナーがあり、私は去年の撮影時から抱いていた疑問を問いかけた。
「なぜデジカメではなくフィルムカメラを使っているんですか?」
撮影した瞬間に結果がわかり、何枚撮ってもフィルム交換しなくてすむ。現像の手間もなく画像データは嵩張らない。デジカメを使うのが合理的だと思ったのだ。
Noelさんはそんな素人の愚問に的確に答えてくれた。
「フィルムカメラを使うのはカメラや映像でなく被写体と素直に向き合えるためなんです。」
数ヶ月間の疑問がスッと腑に落ちた。
なるほど!液晶画面に映った映像でなく、ファインダーを通して肉眼で被写体に対峙して撮影するためだったのだ。

トークイベント終了後、展示スペースに移動しはじめて作品をみた。
自分大好きな娘は大はしゃぎで自分の映った写真一枚一枚に喃語で解説を入れてくる。ちょっとうるさい。
特殊な印画紙を使っているのか、現像方法が特殊なのかはわからないが、背景の空がミラーのような光沢を放っている。
フィルムカメラを使用しているので、デジタルな画像処理ではないのだろう。

全ての作品から夜の渋谷のビルの上だということを忘れてしまうほどの光を感じた。
高輝度で無機質なLED 照明に負けない光がそれぞれのフレームから放たれ、ギャラリースペースそのものを一段と明るくしているのだ。
訪れた人々が作品の前で思わず目を細めてしまうのは、子どもたちの可愛らしさだけでなく、初夏の日差しのような眩しさを感じたからに違いない。

今回素晴らしい機会をくださったborderless kidsさん。本当にありがとうございました。

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